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 結局、「休み明けにある、寮の新入生歓迎会の準備があるから」と、半分嘘を吐いて、哉菜は五日から実家に帰ることを免れた。連休明けに新入生歓迎会があるのは事実だが、哉菜がその準備をする必要はない。紫月は、寮長を務めている友人に頼まれて手伝っているようだが、同室のよしみでと、哉菜にまで声が掛かることはなかった。  のんびりと、とは言えないが、比較的穏やかに連休を過ごし、六日の朝、七時に目覚ましのアラームで起こされた哉菜は、溜息と共にベッドから抜け出した。隣のベッドで身動ぎする気配を感じて、休日の朝にしては早い時間に起こしてしまったことを申し訳なく思ったが、目を開ける様子のない相手には黙ったまま身支度を整え、朝食を取りに食堂へ向かった。知り合いの誰にも会わずに食事を終えて部屋に戻ると、パジャマ姿の紫月が机の前に立っていた。時刻はまだ七時半過ぎ。 「ごめんなさい。起こしちゃいました?」  開いたドアの音に振り返ってこちらを見た紫月に謝ると、 「おはよう」  と返された。 「――おはようございます」 「気にしなくていいわよ。もう起きるつもりだったし」  決まり文句のような台詞で微笑みをよこされ、哉菜は苦笑を浮かべて、少し間隔を空けて隣り合っている机に財布を取りに行く。 「もう行くの?」 「はい」  机の上に置いたA4の紙に、指を組んだ両手をのせた紫月が続けて尋ねてくる。 「帰りは? 何時くらい?」 「夕飯食べてすぐ帰ってくるつもりです」  大型連休は今日で終わる。長居はしなくてすむ。 「それじゃあ、行ってきます」  引き出しから取り出した財布を鞄に入れ、その鞄を肩に掛けて紫月を見ると、ずっとこちらを見ていたらしい彼女に送り出される。 「行ってらっしゃい。気をつけてね」 「はい」  家に帰るのに、「行ってきます」と「行ってらっしゃい」を違和感なく交し合っている自分たちに不思議な感覚を覚え、やり過ごし、哉菜は部屋を出た。
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