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 姉が亡くなる少し前、いらなくなったらちょうだいと、母親にねだっていた髪留めが、姉に譲られていたことがあった。その時哉菜は、母親に問い質すことができず、きっと姉と自分を勘違いしたのだと、無理やり己を納得させた。そういえばあの髪留めは、今どこにあるのだろう。  子どもの頃、姉の生前も死後も、常に気にしていたのは、母親に怒られないようにすることだった。気を張り巡らせて、顔色を窺い、自分の何がいけないのかを、小さな頭で必死に考えていた。できれば褒められたくて、色々頑張ってはみたけれど、成功したことはなかった気がする。  朝が早いからと理由をつけて、学校まで来るという迎えを断り、電車で帰ることになっていた。学校から歩いて十五分の駅に到着すると、発車五分前と、丁度いい時間。大型連休の最終日。たいして大きくない駅の朝八時台は、予想していたよりも人は少なく、この分だと、片道二時間乗り換えなしの間、ずっと座っていられるかもしれない。 定刻にホームに滑り込んできた電車に乗ると、思った通り、電車の中も人の数はしれていた。空いている二人席の窓際に座った哉菜は、しばらく窓枠に片肘をついて流れる景色を見ていたが、すぐに飽きて目を閉じた。
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