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   昨夜、電話で乗る電車の時刻を伝えておいたので、駅に着いて改札を出ると、父親が迎えに来てくれていた。 「おかえり」 「ただいま」  笑顔で迎えられ、哉菜も笑って応えた。  駅から家までは車で十分弱。春休み以来、約一ヶ月ぶりに会う父親と近況を報告し合っている間に着いてしまう。  三年前に建て替えて、まだ新しさを感じる外観の家は、一ヶ月前と何一つ変わっていない。  父親が車をガレージに入れに行ったので、哉菜は一人で門を開けて芝生に挟まれた数メートルを歩き、玄関の前で一呼吸してから扉を開けた。 「おかえりなさーい」  車の音を聞きつけたのか、家の前に止まったのを見ていたのか、九歳年下の妹麻衣(まい)が、笑顔で廊下を走ってきた。 「ただいま」  条件反射の習慣性微笑でそれに応えた哉菜は、靴を脱ぎ、揃えてから、横に並んで歩きたがる麻衣を先に立たせて廊下を奥へ進んでいく。  法事をするわけでもない、ただの祥月命日なので、親戚など、客が来ているわけではない。敢えて言うなら、哉菜が唯一の客となる。  歓迎ムードではしゃぐ麻衣の後に続いてリビングルームにやってくると、母親が掃除機をかけ終わったと思われる部屋の整理をしていた。北欧のデザイナーの、形はユニークだけれど座り心地の良いソファーと、同じシリーズのテーブルの間で膝立ちになって振り返った。 「おかえり」 「ただいま」 「朝ごはんは食べてきたの?」  立ち上がり、壁に掛けてある時計に一度眼をやってから尋ねられ、哉菜も、意味もなく同じように見てから答える。 「うん」 「そう。ずいぶん早かったでしょう?」 「いつもと変わらないくらいかな」  入り口に突っ立って、どこへ行けばいいのか、何をすればいいのか、これ以上何を言えばいいのかわからずに困りかけた時、ガレージから戻ってきた父親が、 「こんなところに立ったままで何してるんだ?」  と三人に声を掛けた。 「ほんとだわ。中に入って」  父親を振り返った哉菜の後姿に言い、母親はキッチンへ行く。
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