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 妹と父親と一緒にリビングのソファーに腰を下ろして、座り心地の良さを実感していると、 「おねえちゃん、夕ごはんいっしょに食べてから帰る?」  隣から小さな妹に覗き込まれた。 「うん。そのつもり」 「おとまりは? ムリ?」 「うん。明日学校だもん」 「連休なんだから、ゆっくり帰ってこればよかったのに……」 「そうだよ。おとまりできたのに」 「新歓の準備があったから無理だったんだって」  母親と妹の二人から責めるように言われ、それを苦笑で流す。そうしながら頭では、新入生歓迎会について問われた時のための答えを用意していたが、誰かに何かを尋ねられる前に、来客を告げるチャイムが鳴った。  来訪者は寺の住職だった。毎月六日にやって来て亡き姉のために経をあげる、まだ三十そこそこと見受けられる若い住職は、母親の先導でこの家にひとつだけある和室へ通され、他の三人もそれに続く。  北欧家具の似合うこの家に似つかわしくないその部屋は、壁と廊下に遮られ、外観はもちろん、家の中からも、一見そうとは気づかない間取りの中にある。外に通じる窓はないが、中庭に面した窓から光を取り込み、これはこれで、違和感なくこの建物に馴染んでいる。  姉のことがなければ、家を建て替える時も仏間のことなど考えなかったであろう程度にしか、この家の大人たちは宗教に関心を寄せていない。現に、クリスチャンスクールに入ると言った哉菜に、そういう意味での反対は一切なかった。あったのは、何もわざわざ寮に入ってまで遠く離れた学校に行く必要はないだろうという、至極一般的なものだった。寮に入ることが目的だった哉菜は、そこで折れるわけにはいかなかった。だから、言われる前から予想できていたそれに対応できるだけのものを用意していた。といっても、当時通っていた中学校と聆英女学院は姉妹校なので特別推薦枠があること。自分の成績ならその枠を勝ち取れること。高等部に入ればよほどのことがない限り、大学に進めること。そもそも進学校なので、学院外の大学への進学においても心配がないこと。それくらいことしか羅列できなかった。何かもっと、決め手になるようなものはないかと探したが、創立百二十年の伝統を持つ有名私立であるという、周知の事実しか見つけられなかった。ところが、これが思いのほか両親の心を動かしてくれた。
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