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例え離れて暮らし、眼が届かなくても、この学校なら大丈夫だろう。大人をそう思わせるには、伝統と格式ほど有利に働いてくれるものはないらしい。そうして哉菜は、中学で行われた学内選考に合格し、評定平均と内申書による書類審査と面接、学科試験を経て、晴れて聆英女学院の生徒となり、念願の寮生活を手に入れた。  ――別に、寮生活に憧れていたわけじゃない。この家を出られるのなら、手段など何でもよかった。子どものころから何度も家出を考え、一時的な感情に流されることを踏みとどまってきた。勢いだけで家を出ても、何も変わらないことも、見つかって家に連れ戻された時、待っているのが安堵でも、話し合いでもなく、叱責であることがわかっていたからだ。子どもの自分が持てる選択肢など、それしかなかっただけの話。  読経が終わり住職が帰ると、時間は十二時を少し過ぎていて、母親が一人キッチンに入ったので、 「手伝うよ」  と声を掛けたが、 「いいわよ。座ってて」  と言われたので、父親のいるリビングのソファーへ行き、腰を下ろした。  新聞を読む父親の前に座った哉菜は、庭へと続く窓の外に眼をやり、微かに風に揺れている洗濯物を意味もなく眺める。  座り心地は良いが、居心地の良くない空間で、我知らず身体のいたるところに力が入り、時間の経過が気になって仕方がない。 (誰か、友だちと会う約束でもしておけばよかった)  中学の友人の中には、連休の最終日くらい予定を入れていない者もいただろう。ぼうっと外を見ながら、自分の準備不足を悔いていると、麻衣が隣にやって来て、二年に進級してからの学校でのあれこれを、身振り手振りを交えて哉菜に聞かせ始めた。それに相槌を打っている間に昼食の用意が整い、三人はダイニングテーブルに移動して、久しぶりの家族揃っての食事が始まった。
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