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 中途半端な睡眠を取ってしまったため、すっきりとしない頭で電車を降りて、暗くなってしまった道々時計を見ると、八時十三分。寮の門限は七時半だが、予め遅くなることを伝えておけば多少の融通は利く。生徒を信頼してくれていると取るべきか、管理を面倒くさがっているのだと取るべきか。 (前者ってことになってるけど、PTAは納得してるのかな?)  もちろん、生徒たちもそんなこと、親たちと話したりはしない。話せばどういう反応が返ってくるかわからないほど子どもではない。  すぐにぼうっとしてしまう頭を軽く振り、寮の門まであと少しというところで、一台のタクシーとすれ違う。すぐ目の前から発進したと思われるそれを振り返って見送り、前に視線を戻すと、暗くてはっきりと見えないが、見覚えのあるシルエットが門に手を掛けている。目を凝らして近づいていくと、相手も哉菜の気配に気付き、こちらを見た。 「……哉菜?」  由華悧の声だった。 「うん。おかえり」  事情により許可を取って、ゴールデンウィーク開始から丸一週間帰省していた由華悧に応える。 「ただいま。――って、哉菜も帰ってたん?」 「うん」  中へ入るのを待ってくれている彼女に駆け寄って、一緒に門をくぐる。 「どうだった?」  意外に荷物が少なく、軽装な友人に尋ねる。 「疲れた」  溜息とともに出された声から、本当に疲れているのが読み取れた。 「あまりにも疲れたから、タクシーで帰って来たった」  やはりあのタクシーは由華悧が乗っていたのだと考えた分遅れてから、 「京都から?!」  と声を上げる。すると、 「違うよ」  と笑った由華悧から、新幹線の駅名を聞かされた。  おそらく二人のために鍵の掛けられていなかった玄関を開け、二人揃って寮監の部屋へ帰宅を告げに行く。玄関に一番近いその部屋であっさりとした報告を済ませ、三階にある自分たちの部屋へと歩き出す。
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