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「じゃ、また明日」  話の途中のような気もしたが、気にすることなくドアノブに手を伸ばす由華悧に倣って、哉菜も会話を切り上げる。 「うん。ゆっくり休んでね」 「ありがと。おやすみ」 「おやすみ」  微笑んで見せるが、やはり疲れの見える由華悧と別れ、哉菜は三部屋先の自室へ進んだ。  ドアを開け、紫月の姿を確認してから「ただいま」と声を掛けるつもりだった。だが、ドアを開けて目に入ってきた紫月が、想像していた紫月ではなかったため、「た」の形に口を開けた状態で言葉を飲み込んでしまう。対する紫月は、 「――バレちゃった。――おかえりなさい」  指に挟んだタバコを隠す素振りも見せず、ベッドの上で決まりの悪い笑みを浮かべた。 「……ただいま」  後ろ手にドアを閉め、鞄を置きに机の前まで歩きながら、こういう場合はどう反応すればいいのだろう。と考えていると、 「内緒にしておいてね」  可愛くお願いされてしまった。そう言われると、はじめから告げ口をするつもりなどなかったのだが、素直に頷く気になれず、机の前から振り返り、紫月を見た。 「タダではイヤです」 「………」  身構える紫月に、ニッと笑うと、彼女の座るベッドへと近づき、右手を差し出す。 「共犯者になります」  意外な行動だったのだろう。紫月は、一瞬、面食らったように目を丸くしたが。すぐに、 「それは心強い」  歯を見せて笑った。  座っているベッドの上を少し移動して、紫月が哉菜のためのスペースを作る。彼女はタバコを口に銜えると、長座した足の上にあるA4のコピー用紙が落ちそうになるのを押さえ、太腿の上で整えてから、ハードケースの蓋を開け、哉菜に差し出した。哉菜は、両手をついてベッドに上がり、ゆるく胡坐を掻くとそのケースから一本を抜き取る。人差し指と中指の間に挟み、口許まで持っていくと、火の点いたライターが目の前に現れ、そこに顔を近づけてタバコから息を吸い込んだ。
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