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ゆっくりと煙の入った息を吐き出す哉菜に紫月は、
「もしかして、すでに単独犯?」
灰皿代わりにしている紙コップを自分たちの間に置いて尋ねた。
「うーん……。そうと言えば、そうですね」
曖昧な哉菜の返事に、紫月が続けて問う。
「どういうこと?」
「高校に入ってからは、はじめてです」
はじめて吸ったのは中学年二年の時。家族が寝静まった時間に、昼間、父親の書斎からくすねておいたケースを、ライターと一緒に机の引き出しから取り出し、ジュースの空き缶をもう片方の手に、自分の部屋から続いているベランダに出た。はじめての違法行為を前に、罪悪感よりも興奮が先立ち、ドキドキした。抑えきれない鼓動を少し鬱陶しく感じつつ、取り出した一本を唇で挟み、ライターの火を点け、恐る恐る、ゆっくりと息を吸い込んだ。いきなり深く吸い込むことをしなかったからだろうか、咳き込むこともなく、
(こんなもん?)
口の中に広がる、苦さとも渋さとも取れる、決して美味しいとは思わないその味に、拍子抜けした。自分の手の中から、細く、少量の煙を出しているそれを眺め、もう一度口にした。一度目よりも深く吸ってみたが、何も変わらなかった。もっと、と思うようなものではない。味という味もわからない。
(ほんとに、『百害あって一利なし』だね)
そう思った。思ったが、右手はまた口許へ行き、煙だらけの空気を吸っていた。
(……そうでもないか……)
味や身体はどうかわからないが、気分が違った。何だか、息をつく時間を見つけた気がした。
その日から、毎日ではなかったが、そんな気になった日には、夜中、ベランダに出て、誰にも知られない、たった一人の時間を過ごすようになった。しかしそれも、寮生活を始めると同時に中断していた。必要がなくなったからだ。
気分転換でしかなかった哉菜には、吸わずにいることは、むしろ普通のことで、さっき、紫月の姿を見るまで、以前自分が喫煙していたことすら忘れていた。
「せっかく一人部屋だったのに、全然吸ってなかったの?」
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