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「――どういうこと?」 「哉菜を好きなのは光だけじゃないってこと」  集まる視線を気にせず続く二人の、喧嘩にも聞こえかねない会話を終わらせるために動いたのは、話題にされている哉菜ではなく、いつも行動を共にする友人の一人、川上(かわかみ)茉莉(まつり)だった。  水嶋を睨んでいた光がそのままの眼つきで茉莉を見ると、茉莉はそれを柔らかい眼差しで受け止めて続ける。 「九条先輩を好きな人も、哉菜を好きな人と同じくらいいるでしょう? それだったら、二人を同じ部屋にすれば、必要のない争いは起きない。そうでしょう?」  最後のひと言は、哉菜に向けられた。哉菜は、両肩を竦めただけで何も言わない。光は、 「クジとかで決まったって言うんだったら仕方ないって思えるけど、先生たちの思惑でこんな風になるのなんて、納得できない」  言っても仕様のないことを我慢できずに口にする。そして水嶋に、冷たくあしらわれる。 「だったら先生か九条さんに直談判して替わってもらえば? それでこの先一年、もしくは二年間、哉菜のファンにいじめ続けられれば?」  水嶋の声は、高いわけではないが良く通る。それでなくとも多くの視線と関心が集まっている中でのこと、一気に周囲が静まり返った。  泣き出しそうな目で水嶋を再び睨む光と、ハラハラと成り行きを見守るだけのギャラリーに見かねて、というよりは、予想通りの展開に重い腰を上げるといった様子で、漸く、哉菜が口を開く。 「引っ込みがつかなくなった?」 「――そんなんじゃない」  自分よりも背の高い哉菜を一度見上げてから、すぐに横を向いて眼を逸らした光の言葉を、哉菜は信じなかった。しかし追求することも、「じゃあ、水嶋に勝てないのが悔しいだけ?」という、次に浮かんだ台詞も口にせず、優しげな溜め息をひとつ吐いた。 「別に寮の部屋まで同じじゃなくたって、一緒にいられる時間は充分あるでしょ? こんなことで駄々こねないの。子どもじゃないんだから」 「――……」  下を向いて口を尖らせている光の沈黙を、納得のいっていないなりの反省と捉えると、 「ほら、絵里(えり)ちゃん待ってるわよ?」
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