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水無月つかさについて
水無月つかさのあれやこれや。
性別は女。身長は低い、140センチくらい。クラスで背の順に並んだら大体一番前にいる。体重はわからない、太っているとも痩せているとも思ったことはない。今風に言えばショートボブ、古くはおかっぱ頭。動物で例えるならリス、ネズミなどの小さめのげっ歯類。なんだかいつもちょこちょこ一生懸命に動いている印象がある。たぶん身体が小さいからだと思う。性格は暗いとも明るいとも言えない。休み時間に友達同士で黄色い声をあげながら、トイレへ集団行進する時もあるし、静かに椅子に座って本を読んでいることもある。3年1組の2大勢力、小林綾音を中心とした外見良くても性格ゴミーズ、あるいは一ノ瀬蘭率いる黒服大好きゴスロリン、そのどちらにも所属せず、苦手にしている女子もそれはいるだろうけれど、はっきり誰かと対立しているような姿は見たことがない。勉強は、美術が壊滅的に苦手なことは知っている。廊下に張り出された写生大会のポスターに、一つ地獄を描いたものが紛れていた。運動もそんなに得意じゃなかったと思う。ソフトボール部に所属しているとどこかで聞いた気がするけれど、彼女が塁球のユニフォームを着てボールを投げたりバットを振り回している様をぼくは見たことがないし、いまいち想像もできない。
……大体これくらいが、<水無月つかさ>と聞いてぼくが思いつくすべてだった。
小学校から現在までの9年間、教科書を忘れた時には机をくっ付けて互いに覗かせ合ったり、でもだからといって、学年が上がりクラス替えが行われたら二人別れたことにすら気づかないような、ぼくにとって彼女はただの同級生の一人でしかなく、彼女からしてもぼくはそこらのモブAとかそんな扱いだっただろう。
……だったのだけれど。
一つ訂正がある。以上が水無月つかさと聞いて思いつく、すべて、ではない。
何よりも真っ先に、今でも脳裏に焼き付いて離れないあの光景と共に思い出すことがある。それはつまり。
──水無月つかさは、空が飛べる。
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