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4、冬の雪に
電気を消してほしいと、彼女は言った。
恥ずかしいから、見られたくないと。
でも、電気を消したところで、それこそ彼女の存在がなくなってしまうような、完全な暗闇を作り出すことなんてことは、そうそうできないってことに、彼女も気付いている。
例えばカーテンの隙間から零れる雪明かりだったり、スタンバイされたパソコンの電源ランプだったり、メッセージを受信したスマートフォンでも。
どんな些細な明かりでも、暗闇は完全な黒色じゃあなくなって、彼女の身体の輪郭を静かに浮かび上がらせる。
まるで彼女自身の身体が白く輝いているかのような錯覚に襲われる。
どんな彫刻家でも作ることの出来ないような、大理石で出来た美しい後ろ姿。
この暗い部屋で、思わず眩しさに目をそらしてしまいそうになるほどに。
だからぼくは彼女に手を伸ばして、そのむき出しの肩に触れる。
彼女の身体がぴくんと大きく跳ねる。
震えているのがわかる。彼女の体温と、戸惑いが、恥じらいが、両手から伝わってくる。
だからぼくは、
ゆっくりと、震えを止めようと、後ろから水無月を抱きしめた。
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