2、夏の庭みたいに

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2、夏の庭みたいに

 狙うべきコースは分かっていた。  相手の後衛はバックハンドが苦手だということを隠すこともしていなくて、多少のきつい場所でもその俊足を生かして回り込んで打ってくる。力任せの安定性に欠ける強打だけれど、一度こちらのコートへ入ってしまえばぼくはなんとか打ち上げる程度の事しかできない。弱弱しく上がったボールを叩きつけようと、相手の前衛は少し下がって待ち構えているわけだ。このパターンで何度も得点を重ねられた。  追い詰められた、最後の1点。この1点を取られてしまえば、夏が終わる。  相手側のサーブ。これは脅威じゃない。今試合のファーストサーブの成功率はそんなに高くない。ただ向こうはまだ余裕がある。きっと力任せに打ってくる──。  ばしり、とボールがネットに当たる。ふぅ、と少し息を吐いて、少し前よりに移動する。  セカンドサーブ。さすがに余裕があるとはいえ、何か仕掛けてくることはないだろう。とりあえず入れるサーブだ。入ればそれでいい。向こうに限っては。  後ろに構えるパートナーに左手でサインを送る。     
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