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不機嫌な返しで梨花は足早に歩き始めた。慌てて祐一が追いかけてくる。 祐一は身長が高く、体はしっかりと引き締まっており、顔も悪くない。青いネクタイに白いシャツと白いスラックスの制服がよく似合っている。温泉街で働いている人たちからも人気が高いのだが本人は全く気にしておらず、愛用のスマホに付いている2次元キャラクターの桃華に夢中である。
「どうした?不機嫌だな」
「ちょっとね、色々あったんだよ」
「溺愛親父さんと揉めたか?」
「揉めてはないよ。喧嘩はしないし、できないし」
溺愛親父、村で源一はそう呼ばれている。幼稚園の運動会から始まり、小学校、中学校と「愛ラブ梨花」と書かれたTシャツで応援に来た猛者だ。カメラや応援にも力の入れようは凄まじく一人娘を溺愛する親父と札をつけて歩かせてもなんら間違いない気はする。
小学校高学年の時に恥ずかしくなって辞めるように説得したところ、大泣きした。いや、号泣した。それはもう梨花がいたたまれなくなるくらいに哀れに泣いた。結果、止めることは不可能であると悟って今に至っている。
「たしかに揉めて泣いたらかわいそうだからな」
頭をポンポンと優しく叩いた彼に少しばかり表情が緩んだ。
「ん・・・・・ちなみにどっちが?」
「親父さんが」
持っていたカバンを勢いよく彼の溝うちに叩き込む。ネクタイピンをしている彼にそれが当たれば激痛であることはよくわかったいる。
「だと思った!」
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