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少しでも表情を緩めた自分が馬鹿だったと梨花はさらに腹を立てた。と同時に朝の矢の件が思い出された。あの父親のことだ、あの矢から相当な妄想を抱き始めるのだろう。帰ってから、梨花がああなったらどうしよう、梨花がこうなったらどうしよう、と私に話しかけて来るにきまっている。
なんとめんどくさいことだろうと、ため息が出た。
「なんか、親の愛がでかいと大変だな」
「それは慰めてくれてるね。ありがとう」
素直に礼を言って八百屋から数件離れた味噌屋の前を通ると、赤味噌色をした女が入り口から出てきた。
「なんで起こしてくれなかったの!、と、おはよう、お二人さん」
店の中に怒鳴った彼女は途中で2人に気がついた。
「おはよう、朝から元気だね」
「うん、慌てて起きてこのざまよ」
長い髪の毛を手ぐしで解きながら日焼けした健康を主張するような肌を見せて味噌屋の娘、間宮薫は?を膨らませながら駅へと一緒に歩いていく。陸上部で優秀な成績を誇る彼女だが朝にはめっぽう弱い。その為、朝練のときは起こしてもらうのが常なのだが、今日は忘れられたようであった。
「朝練、大丈夫なのか?もうすぐ大会だろ」
「うん、実際はやばいかな・・・勝てる気しかしない」
自信満々の表情で彼女はいう。
「それはすごいな」
「うん、すごい」
祐一の納得に梨花もまた相槌をうった。
「それくらいの意気込みで行かないと、勝てるものも勝てないよ」
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