序章

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「昨日、ランニングの帰りに遠山神社の前あたりで紺色の着物姿のじじいとすれ違ったんだ、最初はどっかの旅館かホテルの酔っ払い客がふらついてるかと思ったんだけど、すれ違った時に矢を持ってたんだよ、普段見ないようなもの持ってたから気になって覚えてたんだ、で今の話だろ、もしかしてと思ったんだよ」 「遠山様の近くで?」 遠山神社とは温泉街の中間地点にある小山の森の真ん中に御鎮座されている神社のことだ。 「おう、その石段の前だよ、何でだろう、顔までは思い出せない・・・、でも、気持ちの悪い雰囲気を持っていたのは覚えてる。」 「そんなに変な人だった?」 「変な人なんだけど、すごく気持ちが悪かった。なんだろう、嫌いとかそんなのではなくて、生理的に受け付けないみたいな感じだったよ」 祐一の表情がひどく歪むのをみて2人は恐ろしくなった。人の良い祐一がここまで毛嫌いするのも珍しい。それがなおさら、怖さを産む。 「でも、そんな不審者歩いてたら石達磨に連絡行かない?」 石達磨、人の名前ではなく中井侍村全体に根付いている施設のあだ名である。正式には長野県警察・阿南警察署・中井侍村警部交番のことだ。交番とつくが規模は大きく、小山の森の隣にある中井侍中央集会所と併設する形で立派な建物に入って日夜温泉街を守っている。 その警部交番のある場所の住所が石達磨というのでみんな石達磨と呼ぶのだ。 また、そこに赴任してくる警察官が皆、達磨顔ばかりで怖いのもあだ名の出所かもしれない。     
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