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序章
長野、愛知、静岡が県境を隣接している中井侍町に鄙びた温泉街がある。
周囲を急峻な山々に囲まれた天竜川沿いの両岸にある川沿いの平地にできた温泉街で、効能効果は素晴らしく古来より湯治に来るお客様で街は人通りが多い。
その一角に旅館がある。大きな庄屋作りの建物を改装してできた建物の軒先には「小狐旅館」と看板が掛かっており、その下には小さな狐の石像が置かれていた。
「いってきます」
元気の良い声とともに女子高生が入り口にかかっていた小狐旅館の暖簾を押して出てきた。長女の梨花の姿だ。白色のワンピースに黄色のベルトが特徴的な天龍高等学校の夏服を着た彼女は登校のため駅へと向かおうとして、毎朝の恒例である看板下の小狐を撫でようと手を伸ばす。
「あれ?」
狐の頭の上に黒色の房の影があった。
上に目を向けていくと、小狐旅館の看板の上に白い矢が刺さっていた。
白木でできた篦に紺色の羽、そして紫色の襷が縛り付けられた矢は打ち込まれたように看板にしっかりと突き刺さっている。
「お父さん、おとうさん!看板に矢が刺さってる!」
「あん?」
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