もたれた相手

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もたれた相手

 帰宅時、仕事の疲れが出て、電車内でうたた寝をしてしまった。  それだけならば問題はないが、気づいた時、俺は隣の人にこれでもかというくらいもたれきっていた。  とんでもなく迷惑をかけた。  真っ青になり、反射で謝罪の言葉を口にして身を立て直す。けれど俺の隣に人の姿はなかった。  時間的にも遅くて、社内にはほとんど人の姿はない。  確かに誰かにもたれていたと思ったが、気のせいだったのだろうか。  寝ぼけて背もたれを人間と勘違いしたのかもしれない。  他人に迷惑をかけてないならいいかと、あまり気にせず、その日は最寄り駅で電車を降りた。  でも翌日、同様の残業で疲れ果て、またうたた寝をした俺は、今度こそ間違いなく誰かにもたれて寝ていると確信した。  背もたれ相手じゃ、視界の風景はこんなふうには見えない。確実に隣に誰かいて、俺はその人にもたれ切ってしまっている。 「すみません」  体を起こしながら謝罪を告げる。でも隣にはやはり人の姿はなかった。  夢でも見ていたのだろうか。  まだ冷め切らぬ頭でぼんやりそう考えた俺の耳に、無人の空間から『気にしないで下さい』という声が返った。  …いや、その、多分二日も続けてもたれかかって、うんと迷惑だった筈。それを許してくれるのはありがたいけれど、気にするなと言われても…それは無理だよ気になるよ! もたれた相手…完
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