真夜中の絶対エース

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まだまだエネルギーが余っている。 一点に集中し過ぎない。こんな状況でもまだ周りが見えている。 流れる風が軽くなり、白い雲の位置が高い。 風が出てきて体は幾分動きやすくなったが、精神的には相当プレッシャーだ。 相手も身じろぎ一つせずにこちらを睨み付けている。 緊張を悟られてはならない。 全身からジワリと噴き出る汗はそのままに、早打つ鼓動を抑えつけるように長い深呼吸を一つ。 帽子を深くかぶり直す。いつものようにやるだけだ! 次の一振りで終わらせてやる!その後の二人も一気にたたみかける! 逃げずに攻める。真っ向勝負だ! 行くぞ!! 大きく振りかぶって上半身をねじる。 相手の応援をもねじ返す、俺はマウンドの絶対エースだ! カッキィーン! ・・・・・・・げっ!! ・・・・・・・頭が真っ白になるとはこのことだったんだ。 はしれえええ、レフトォォォ・・・・!! 慌てるなよー、いや、慌てろ!  一直線に走れ!お前なら取れる! 落ち着けよー、いや、落ち着いてる場合か!  もっと走れ!呼吸してる余裕なんてない!このまま息止めて走れ!前へ!前へ! ああ、なんでお前に羽が生えてないんだ! 取れるよ!諦めるな!お前なら絶対取れるから! 勝ちたい!勝ちたい!勝ちたあああ・・・ 「ああああああ・・・やめてくれえええ・・・入るなあああ・・・」 俺は「あー」と叫びながら目を開けた。 流れる初秋の涼風が軽く吹き、網戸の窓から覗く白い雲の位置が高い。 月がまん丸で、ついでにコオロギがコロコロコロ。 「うるさいですよ、キャプテン」 「あー、もう」 あちらこちらの暗闇で寝返りを打っている。 そ、そうか・・・ヨダレが出てないか一応、確認。 「あー、夢で良かった。負けるとこだった。ところで、今、何時?」 「真夜中だよ・・・」 隣で寝ていた女房役のキャッチャーがウザそうに答えた。ヨダレを拭いている。 夏の熱い試合を終え、県の秋季大会に向け、明日は遠征試合だ。 俺達は既に動き出している! 俺はマウンドの絶対エースで、どんな時でもこのチームをまとめるキャプテンだ! 前進あるのみ! 「最後まで詰めてやっていこう!全員、強い思いを持って寝てくれ!」 「うるせーんだよ。いいから早く寝ろ!このタコ!」 隣で寝ていた女房役のキャッチャーにヨダレの付いた枕で頭をはたかれた。 「だから、真夜中だっつーの!」
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