彼女の問い

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 彼女にとって、人間というのは不思議に満ちた生物だった。  男は愛しい女を守る為に他の女が愛した男を(ほふ)り、女は我が子を救う為ならば他者の子を手に掛ける事も厭わない。無垢に映る子供ですら、自己の欲求が命ずるままに他の子供を虐げたりする。  なぜだ。  自分達の愛が内包する矛盾に、その破綻に誰しもが気付きながら、頑なに目を逸らして生きている。彼らは矛盾する本能の内にしか存在できないとでも言うのか。  そして、それはなぜだ。  砂浜に物言わぬ(むくろ)となって横たわる、白髪の老人。半世紀以上を彼と共に過ごし、いままたその記憶を取り込んだ。しかし、彼女の問いはやはり宙に浮いたままだ。  それならば。もう少し、問い続けてみるとしようか。  声ならぬ呟きに、彼女の内に存在する人格の半数以上が賛意を示した。  脱ぎ捨てたフードを再び目深に被った魔女リュドミラはアレンを振り返ることなく、(かざ)した腕を(ひるがえ)して。  その白色の肢体を、故郷の島からかき消した。 (了)
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