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目蓋を落とした魔女の内側を焦がす、少女の記憶。それは彼女自身のものではないにも関わらず、手放すことが叶わない呪い。初夏、昼下がりの磯場、海を背に少年に向かって片腕を伸ばして、言葉を紡ぎ、踵で蹴った岩の端。
日差しにぬかるんだその感触。それはあまりにもまろやかで、まるでこの島そのものが……
白砂に足跡を残しながらゆっくりと近付いてくる、幼馴染の少女。フードを脱ぎ去って露わになった白髪の下、美しく澄み切った相貌に紋様が浮かんで輝く。これまでも幾度となく目にしてきたそれは、時には彼女の身を這い回って絡み付く蛇の様にも見えた。
だが、いま彼の朧な視野を白く覆う滑らかな掌。
そこに映って明滅する、それはむしろ。
「アルキ……ナティア」
幼少期からいつも身近にあって、紅い花を揺らしていたその樹影。島に根を張り、しなやかに空へ伸びるその姿を目蓋の裏に浮かべながら。
午後の日差しの温もりを溜めた白砂に、アレンの肩が沈んでいった。
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