孤島

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孤島

 碧色の海に小島が二つ、南北に隣接して浮かぶ。  南の島には人家が散在する一方、北の島にはうら寂れた(ほこら)が一つ。それは潮風になぶられ、海鳥の糞尿にまみれていた。  この島の住民は十五歳を迎える年に、北の島へ渡る。  晩秋の干潮時に二つの島を白く繋ぐ、堆積した珊瑚の細道。一生に一度だけ、この(わだち)を踏みしめて祠を訪れる通過儀礼(イニシエーション)。  そして、水底に眠る二枚貝の如く口を閉ざす代償として、誰しもが満ち足りた生を享受する。  温暖な気候に恵まれ、アルキナティアの花が朱く咲き乱れる絶海の孤島。  入り江を望む緩やかな傾斜を舐める様に白壁の民家が散在し、それらを繋ぐ石畳は雨に濡れると潮を柔らかく香らせる。  それがオレの生まれ故郷。  島の村長を歴任する家系に生まれ、黄昏時に吹き抜ける穏やかな海風の延長線上に日々は続くと信じていた。  それがオレの幼少期の記憶。  この世に「魔女」が本当に存在するなんて、信じてなかった。  それこそが、オレの唯一にして生涯最大の罪。
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