3人が本棚に入れています
本棚に追加
「え?何で???」
小学6年生の昌弘は思わず大声を上げた。その声を聞いて台所から由美子がやって来る。
「一体どうしたの?」
「色、変わっちゃった……」
昌弘は一部が青色に変色した赤い紙を見せながら呆然とした表情をしている。
ーーリトマス試験紙か。久々に見たわね。
由美子はふとそう思い、何だか懐かしい気持ちになった。この間夫の彰が昌弘の夏休みの自由研究のために何か買ってきていたのは分かっていたが、これだったのか、と合点がいった。
「これ赤色リトマス紙でしょ?確か、アルカリ性の液体につけたら赤い紙が青くなるんだっけ?」
「そうだよ。でも変わっちゃダメなんだよ」
困った表情で昌弘はそう訴える。
「どうして?」
「だってこれ、食塩水だもん」
昌弘はそう言って由美子に理科の教科書を突き出す。そこのコラムには確かに記述があった。
「リトマス試験紙には赤、青の2種類があり、塩酸のように酸性の水溶液につけた場合は青色の試験紙が赤色に、水酸化ナトリウムのようにアルカリ性の水溶液につけた場合は赤色の試験紙が青色に変化します。食塩水のように中性の水溶液の場合は赤色の試験紙も青色の試験紙も変化しません」
昌弘は困った顔をしている。それもそのはず、昌弘の夏休みの自由研究のテーマは「色々な水溶液の酸性・アルカリ性を調べる」だ。石鹸水や酢、レモン果汁、排水管の洗浄液、砂糖水、重曹を溶かした水溶液など様々な液体をリトマス試験紙につけて実験し、それをまとめる予定だった。ところが、いきなり教科書の記述とは矛盾した実験結果が顔を出してしまった。要は出鼻を挫かれた格好なのである。
最初のコメントを投稿しよう!