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キャベツ
食卓には由美子の手料理が並ぶ。今日の料理はナスとピーマンの煮浸しとシャケのムニエル、野菜サラダ、そしてわかめと豆腐の味噌汁だ。彰は由美子の手料理を食べるのが毎日の楽しみであり、それこそ由美子に胃袋を掴まれて結婚したと言っても過言ではない。
「そうか。普通に考えたら確かに変だな」
その日の夜、ムニエルをつつきながら由美子に言う。
「ね?やっぱり変でしょ?」
由美子が困った表情でそう言うと、彰は昌弘の方を見た。
「お父さん、分かる?」
「そうだな……教科書に書いてあることと実験の結果、普通に考えたらどっちかが間違ってるんだよな」
「そうなんだけど……でも、間違いないもん」
「そうだよな。ってことは教科書が間違ってるのかな?」
「それも、多分違うもん」
「だとしたら、リトマス試験紙やph試験紙が不良品なのか?」
「それは……」
昌弘は自信なさげにそうつぶやいた。彰は野菜サラダに箸を伸ばす。
「由美子、今日のサラダ、珍しいな」
「ムラサキキャベツ使ってるから?今日はこっちの方が安かったのよ。それに、いつも同じサラダだと飽きるでしょ?」
「そうだな……」
彰はキュウリとムラサキキャベツを箸で運び、味を噛みしめる。ニンジンとリンゴをすりおろして作った由美子の特製ドレッシングとの美しいハーモニーが彰の口の中で広がった。
「なぁ、由美子……」
「どうしたの?」
「余ってないか?コレ」
「え?まぁ、少しなら余ってるけど……」
由美子は怪訝そうに彰の持っている箸の先を見ながら答える。彰の箸はムラサキキャベツをつまんでいた。
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