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影世界のヒッキ―
スーパームーンの皆既月食。
そんな誰もが夜空を見上げている中、僕は勉強机に向かっていた。
高校受験は一分一秒も待ってはくれない。
父曰く、学校とは単位を取得する場所。良い成績を修めれば理想の職に就ける。学業を疎かにするのは、自身の可能性を狭める愚かな行為。
日本――ひいては世界という箱庭で好きな所へ飛ぶには、条件がいる。
一つ、高みに上ること。小中高大での優秀な学績。
二つ、翼を合わせて飛距離を稼ぐ。大学と院でのコネクション。
そうして得た利益こそが幸せの方程式。世に敷かれた暗黙のルール。
その通りだと、僕も思っていた。
数学の設問を解き終え、僕は時計を目にした。見直しを含めても随分と余裕がある。このまま自己採点に移ってもいい。けれど根を詰め過ぎるのも良くないと、目頭をグリグリと押さえながら、椅子を回転させた。
勉強机にある明かりで、僕の影が長く伸びている。ベッドと本棚、タンスしかない質素な一人部屋。それらを跨ぐようにして、影は存在感を示していた。ぐっと背伸びでもするかのように、大きく。
そこで僕は、はたと気が付いた。
僕は腕なんか上げていない。
ずっと目頭を押さえたままだ。
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