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ゆっくりと目を開ける。
黒と白、灰色で構成されたモノクロの教室。
『すみませんでした、先生』
そして僕の隣には、影の輪郭を立体化させた――もう一人の、僕がいる。
影人間の僕は、軽く頭を下げて応えた。
『昨晩の予習が上手くいかず、寝不足でした。先生の授業は分かり易いので、以降は聞き逃さないようにします』
『……そ、そうか? わかった。席に戻れ』
『すみませんでした』
「機嫌取りは良いけれど、ペコペコと頭を下げるなよ」
そう言って僕は今度こそ、はっきりと舌打ちした。この声は誰の耳にも届かない。ここにいるのは皆、どす黒い影人間だ。その塗り潰された表情は汲み取れないし、所作と現実世界の声でしか察せない。
影人間の僕は何事も無かったかのように着席して、授業を受けた。
あの皆既月食から一年。僕は、この奇妙な世界のことを調べて回った。単なる知的探究心だけじゃない。全ては自分の利益の為に。
「それじゃ、あとは任せたぞ」
反応が返ってこないことを承知で話しかける。こうでもしないと落ち着かない。
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