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勝手に動き喋る影人間の僕は、観察する限りでは一般常識を持ち合わせている。僕が蓄えた知識も、それなりには使いこなしているようだ。だからこそ変わっていられるが、口が達者なのと調子者なのが我ながら気に食わない。
下手に誰かを勘違いさせて余計な面倒でも作ろうものなら、僕は影世界での利便さを諦める気でいた。今のところは、まだ平気なようだが。
こいつの影さえ踏めば、いつでも現実世界には戻ってこれる。そんな気軽さが僕を解き放っていた。
教室の扉を開けて廊下へと出る。開けた扉は、まるで自動ドアのように閉まっていく。
あくまでも影世界は裏面。物理的な干渉こそ出来るが、基本は表面の現実世界に引っ張られる定めだ。ここでは何を壊そうが燃やそうが、短時間で元に戻る。
それは僕自身においても同じで、こちらで指を切ったところで現実世界の僕には影響しない。
学校を出た僕は、モノクロの影世界を歩く。雑多に聞こえてくる話し声と物音。人間やペットが輪郭を持った影なだけで、この世界も同じ時間軸上に流れている。
『うっわ、何それ最悪じゃん。別れちゃいなよ、そんな彼氏』
『えー、でもでも食事代とか出してくれて便利だしぃ』
律儀に影人間達と並んで信号を待つ。自分が犯人だと特定されない、世界のルールを把握した上で、下種な影人間を車に轢かせたこともあったが……やはり現実で交通事故は起きていなかった。信号機が灰色から灰色に変わる。
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