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どう抗ったとしても、影世界は現実に引っ張られてしまう。
しかし何事にも例外はあるもので。
僕が手に持ち続ければ――つまり干渉し続けてさえいれば、本くらいは読める。
向かった先は学校から徒歩十分ほどのところにある図書館。僕が影人間に無駄な授業を受けさせている間は、こうして様々な場所へ赴き、知識と経験を得ている。
僕には圧倒的に人生経験が足りていない。本当の知恵は、行動を伴って然るべきだと思う。分かった気にだけなるというのは、物事の本質を捉えていない証拠なのだから。
自戒を胸に、僕は図書館の入り口に手をかけようとして――
「よ、ようやく見付けた!」
やけに通る声だった。影人間が発している、こちらを向いていない声色じゃない。まるで僕に話しかけているような、そんな響きがした。
「そこの、君。待って!」
僕は振り返り、そして目を見開いた。
僕以外の真っ当な人間が、そこにいた。
見かけない制服姿。年頃から判断すれば女子高校生だろうか。膝に手をつき、苦しそうに息を切らせている。セミロングの茶髪は正面に垂れ、振り乱れていた。
「やっぱり、人だ……私の他にも、いたぁ!」
上気させた頬を緩め、彼女は心底安心したように笑った。
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