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ああ、駄目だ。やめてくれ。最悪じゃないか。
この胸の高鳴りは……間違いなく、危機感を報せている。
僕の他にも、影世界に出入りしている人間がいたなんて。
こんな事態を、考えていなかったわけじゃない。けれど、ここ一年の間に可能性を低く見積もっていたのは確かだ。
「誰だ、お前は」
僕は短く告げた。
こちらの素性は何が何でも隠し通す。その上で、相手の情報は包み隠さず暴いてやる。本来なら顔すら見られたくなかったが、不意な出会いでは仕方がない。
彼女も警戒してくるだろうと思いきや、息を整え、絶やさない笑顔のまま姿勢を正した。
「あ、ごめん。まずは名前からだよね。あたしは、日比野捺希。友達からはヒッキ―って呼ばれてます」
バカなのか、こいつは。すんなりと愛称まで自己紹介するなんて。無防備が過ぎる。そんな有り様で、どうやって今まで生きてこれたのか。
僕の不快感が顔に出たのか、明るかった彼女の表情が、一転して悲しげに変わった。
「こんなこと、初対面の君にお願いするのも変だけどさ……ここから出れなくなったの、助けて!」
言葉の真意が分からず、僕は間抜けにも口を開けて固まった。
ここから、出れなくなった?
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