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彼が久し振りに見たトランシルヴァ王国の空は、いつものものとは大幅に違っていた。
雨が少なく、爽やか且つ穏やかな青空が多いこの地では珍しく曇天が広がり、雷の光が迸っている。
普段ならばあり得ない荒れた天候に加え、上空を無数のキメラが飛び交っているのだ。
トランシルヴァ王国には多数のモンスターや妖精などが存在し、人々も特に怖がる事なく接してきているのだが、前代未聞のこの事態には、さすがに恐れをなしているようだ。
城下街も人通りはなく、昼中にも関わらずしんと、静けさだけが支配した、まるで死の街のような重苦しい雰囲気まで漂っている。
何故、キメラが上空を飛び交っているのか――。
そもそもキメラとは、頭がライオン、胴体が山羊で、尾は猛毒の蛇である、人間の言葉すら理解し扱い、時に人間との交流すらある高位のモンスターであった筈だ。
一重に放たれるのは、殺気。
それが無数に在るのだから、人々が恐れて当然の話だ。
アルカードから書簡を受け取り、ある程度は覚悟していたのだが、さすがの彼も、よもやここまで酷いとは思っていなかった。
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