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「私は構わぬぞ。問題の早期解決さえ願えれば、どのような手段でも全く厭わん」
まぁキメラの長はそうであろう。そもそもそうした理由でトランシルヴァ王国に乗り込んできているのだから、問題を解決しようとしている彼を止める義理はあるまい。
だが、残念な事に、キメラの長は知らないのだ。
普段は何事にでも、かなりの度合いで温厚である彼が激情した際に、どのようなものであるのかを――。
以前にジーラが目の当たりにした時などは、それこそ街の一つや二つは破壊出来そうな程に怒り、最早ルヴァンにですら手がつけられない有り様であった。
その時は騎士団の実力者が勢揃いし、ジーラも参戦して、更にゼルの手をも煩わせて、ようやくの事で収めたというくらいなのだから、それはもう手こずった。
そんな風であるから、止める者がジーラ一人である今、例えばゼル、そしてアルカード、ランスロットの手を借りられたところで、まぁフーリッシュの命が風前の灯であろう事は明白だった。
だから、頼むから煽るなと、キメラの長を睨みながら彼の前へと立ちはだかる。
「止めんか、カイル。トランシルヴァ王国に起きた問題を解決しにきたお主が、逆に問題をおこそうとしてどうする」
「……」
対峙する彼に表情というものは感じられない。
それだけでそら恐ろしい思いがジーラを支配するのだが、ここで怖じ気付く訳にもいかない。
力尽くになろうと、止めない訳にもいかないのだ。
「頼むから穏便に済ませてくれ」
「……分かりました。他ならぬ、ジーラ殿の頼みです。聞かない訳にはいきません」
それでようやくの事で剣を鞘に収め、会話に応じた彼だったが、怒りは依然として続いているようだ。
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