14人が本棚に入れています
本棚に追加
とにかく彼は、キメラの長へと向き直ると、しばしの沈黙を経て、顔を上げる。
「取り敢えず、犯人の吊し上げは最後にしておいて、私は一旦城へと戻ります」
「……何故だ?」
「息子さんを無事、解放しに行くためです」
先にフーリッシュの方へ向かっては、自身でも抑えが利かないと判断したのか、はたまた、キメラの長を鎮めるためなのかは知れないのだが、そう断言してみせる。
口振りからして、居場所のあたりを既につけていそうではあったが、それだけでは心許ないジーラが小声で耳打ちした。
「……お主、居場所を知っているのか? そのように断言して、いませんでしたは通らぬ道理よ」
「大丈夫。城にきた時から、とある場所に違和感があったものですから。恐らく、そこに捕えられている筈です」
やけに自信満々に応える彼に、いつにない安堵を覚えると、ジーラは続けた。
「では、“疾風の道”を作るか?」
“疾風の道”というのは、いわゆる場所と場所を一瞬でつなぐ、とても便利な魔法である。
とにかく常に、長距離を移動する冒険者達にとっては、真っ先に習得したいものである。
ただし、通常は一度行った場所や、使用者が知っているところでないと、正確な位置には辿り着けないという難点もあるのだが、ジーラにとっては細かい指示が成されても辿り着けるくらいに朝飯前な魔法なのである。
それ故彼にとっても、どんなところにでも一瞬で辿り着く事が出来るのは、かなりの度合いで重宝する魔法の一つであった。
ただ、今から行こうとしているのは、恐らくジーラも見た事がない筈だ。
「……大変にありがたい御言葉なのですが、ジーラ殿、さすがに訪れた経験のない場所には、飛べないでしょう」
なので遠慮勝ちにそう返す。
最初のコメントを投稿しよう!