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「お主、儂を誰だと思うておる? 大魔導師、ジーラ様だぞ? 泉の主に、力を全盛期にまで戻してもうておる。今や行った事のない場所ですら、儂の庭じゃ」
「……」
さすがの彼も、よもや全盛期のジーラがそこまでの人物とは考えていなかったらしく、目を見張りしばらく無言でいたのだが、やがて持ち直したのか、小さく息を吐くと苦笑いした。
「ありがとうございます。ですが、そう遠くない場所の事に、そのような大それた魔法を使わせる訳にはいきません」
このまま徒歩で帰りましょう。そう続けた彼は、二人が会話を終えるのを待っている様子のキメラへと向き直る。
「必ず息子さんは無事、連れ帰ります。どうかその時まで、ここでお待ち頂きたいのです」
「……。……うむ。相分かった。他ならぬ貴様の頼み、聞いてやらぬ事もない」
「ありがとうございます。では、すぐに帰って参ります」
言いながら深く一礼した彼は、そのまま踵を返すときた道を足早に戻る。
予想が正しければ、キメラの息子は地下牢に囚われている筈だ。
しかも、ただ閉じ込められている訳ではなく。何らかの魔法石を使って、抵抗出来ないような状態にもしているだろうと、そう踏んでいた。
そこまでしないと、地下牢如き、キメラを縛る足枷にはならない筈だからである。
最初、トランシルヴァ城へと足を踏み入れた際に抱いた違和感に従い、その足で地下牢へと向かえば良かったと思う。
だが、早期に見付けてしまえば、キメラの長との、長期に渡る世間話もままならなかった事を思えば、それはそれで、良い結果に落ち着いたとも言えようか。
城への道のりを急ぎながら、彼の胸中には陰鬱としたものが募っていくのだった――。
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