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大通りは、普段ならば露店の類いやフリーマーケットのような路上販売が展開され、行き交う人々で賑わっている筈なのにと、今は通り過ぎる者すらない。
一体どうしてしまったのかと、彼の表情は天候と同じく曇るばかりだ。
アルカードから「トランシルヴァ王国始まって以来の危機だ」との書簡をもらい、これは急がねばと馳せ参じたのだが、本人から直接話を聞く前に様子を見ておいて本当に良かったと思う。
何も見ず、魔法石や魔法を使っての空間移動のみで王城に辿り着き、ただ話を聞いただけでは俄に信じがたい光景だからだ。
一通り街中を歩き回ったところで、もう充分だろうと急ぎ足でアルカードの許へと向かった。
そうして数十分後、通された謁見の間で対峙した親友の顔は、つい先日まで笑い合っていた相手とは思えないくらいに、疲弊しきったものだったのだ。
「……カイル、よくきてくれた。ありがとう。本当に感謝するよ」
「親友の一大事に駆け付けるのは当然の話だ。……それより、街を一通り見てきたのだが……」
一体あれはどういう事だと詰め寄るが、アルカードはらしからぬ歯切れの悪さで、一向に話を進めようとはしない。
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