第二章・―二転三転―

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 こちらの道を選んだのは正解であったのか、どうやら苦しそうな唸り声は、扉の向こうから聴こえてくるようだ。  アルカードが懐から鍵を取り出し、(かんぬき)錠を解錠する。  そうして重苦しい音と共に、遂に扉が開かれた。  途端に中から血生臭い、湿った空気が漂ってきたかと思うと、弱々しくはあるのだが、確かに迫力のある咆哮が、彼らの鼓膜を破るが如く()(だま)する。  加えてびりびりと、振動さえ感じる殺意に、思わず(あと)退(ずさ)るアルカードであったが、彼はそんなものすらお構いなし、といった様子で声のする方へと歩いて行ったのだ。 「か、カイ……!」  慌てて少し追い駆けた先で、何故か彼が一点を見詰めながら立ち止まっていた。  そこには、先程までトランシルヴァ王国の上空を飛び交っていたのと同じ、キメラの姿が在った。  獅子と見紛う頭をもたげ、山羊の身体を持ち、恐ろしげに毒蛇の尾を揺らめかせながら、突然姿を現した彼らを睨み付けている。 「……」  鎖等で縛られているというような事はなかったが、咆哮するだけで攻撃はしてこなかったところから判断するに、どうやら万全の体調ではないらしい。  そこでふと、キメラが身体全体に渡るくらいの怪我をしている事に気が付いた。  先刻まで聴こえた苦しそうな唸り声はこのせいだったかと、アルカードが彼に視線を戻す。
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