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「俺はもう寝るけど、変なことしたら許さねーから」
「しないよ、葵には。──絶対に」
「……そ、ならよかった」
葵には、という一言に引っかかりを覚えながらもゆっくりと目を瞑る。途端に視界には光が届かない空間が広がった。ただ穏やかな兄の呼吸音と、静かに響き渡る己の心拍音を耳に聞き入れながら眠りにつく。
「おやすみ、葵」
普段顔を合わせれば一方的に酷く淀んだ瞳で兄を見つめてしまっていたが、──今だけは。
「……あぁ、おやすみ……兄貴」
背中に届く温かみとともに幼き日の楽しかった思い出を夢の中で思い出しても良さそうだ。二人仲良く笑みを浮かべていた何の変哲もない穏やかな日々の記憶を。
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