1人が本棚に入れています
本棚に追加
「葵?」
「俺は兄貴のことが嫌いだ。あんたのその……男に対しての欲求を堪えきれないとこが……マジで嫌いだ。でも……なんでだろうな、血を分け合っただけあるのか…今日だけは特別許してやる」
「相変わらずオレには上からだよなぁ、葵」
「嫌ならとっとと出てけよ」
「イヤとは言ってないよ」
思い出される兄の淫らな声。いくら大きく首を横に振っても思い出してしまう声に関する記憶全てを消してしまいたい。
しかし今、寂しげに肩を落とす子犬のようにベッドの前で立つ実の兄を拒絶できずにいた。
「枕は?」
「持って来た」
「……じゃあ、入ったら」
「うん、ありがと」
壁際に寄り、兄の入るスペースを開けた。壁側へと顔を向け、兄に対して背を向ける体勢をとる。
葵よりも僅かに高い身長とそれでいて細身なこの体を抱いた男がいる。見知らぬ男に抱かれた兄。目の前でベッドに横になった雅嗣とは間違いなく兄弟だが、越えてはならない一線が明確に刻まれているのもまた事実。引かれた一線を越えるつもりは毛頭ないが数年ぶりに感じた雅嗣の温もりについ懐かしさを感じた。
最初のコメントを投稿しよう!