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 次に「鈴鹿レーシング」の二人。もっともこちらは研修生のようで、綱島は彼らの名前も顔も知らない。鈴鹿が高卒の研修生を採っているということは耳にしていたが、正直そこまで驚異とは思わない。本当に力があるのならプロ・チームは金を払ってでも彼らと契約するだろう。  その他にもセミ・プロの選手はちらほらと見えていたし、事前のエントリーでもトップ・アマに近いメンバーも確認していた。  だが、今日のレースは大きな意味を持たない。来週にJ・プロツアー第14戦が開催される。このレースは、言ってみれば調整のためのホビー・レースなのだ。だからおそらくプロは無理をしてこないだろうし、セミ・プロやトップ・アマにしてもそこまで調整してレースに臨んではいないはずである。  しかし綱島は違った。自転車競技に勤しむ大学生にありがちな極端な苦学生になり果てていた綱島は、本日の景品を狙っている。  大学三回生の綱島がこのレースに出る理由は三つ。  一つは、まず商品。エントリー・フィーが二千円と信じられない価格で開催されるこの大会は、何故か商品が豪華なことで知られている。  一般に日本のホビー・レースのエントリー・フィーは五千円を下回ることはまずなく、それでも日本のおじさん方はせっせと五千円を払い込んで十キロと少しのレースに汗を流すのだ。日本のレース・シーンはおじさんが支えている。     
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