全編

3/34
前へ
/34ページ
次へ
 ロード・レースの賞品は意外なほどバラエティに富んでいる。もちろん自転車のパーツや商品券、あるいはそれに準ずるものが多い。一方で、レース会場に指定された場所の特産品が商品に指定されることや、また「なぜ?」という企業が「なぜ?」という賞品を出していたりする。  本日の「なぜ?」筆頭は車検無料クーポンだった。  これは綱島にとってなんとしても獲らなければならない賞品だった。ポンコツ寸前から二年以上持ちこたえている部車は、クーラーにご機嫌伺いをしなければ作動してくれないような状況だが、それでも部員と自転車を積載して運搬するという役割はなんとか果たしていて、そんな部車にも平等に車検はやってくる。  そして、ここで車検無料券を獲得し部に売り付ければ相当のプラスになる。少なくとも、エントリー・フィーやここまでの交通費は問題にならない。        ☆ 「車検って結局いくらでしたっけ?」  綱島の左側を走る同じユニフォーム、日吉達也が綱島に声をかける。 「十万くらいだろう」振り向かずに綱島が答える。視線は前を走る選手の背中から外さない。「レースが百キロだから、およそ二時間半。もし獲れれば、時給四万円のアルバイトになるな」 「なるほどです」日吉も視線を動かさずに答える。「僕がアシスト出来たら、5:5で割ってくれますか?」  一瞬思案して、 「2:8」 「うっそでしょ! せめて4:6」 「じゃあ3:7だ。これ以上は譲れない」 「分かりましたよ。しょうがないっすね……」     
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加