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永遠に聴いていたいと思わされたその歌は、実際にはどれだけ聴けたのだろう。
気がついたときには目の前にルーシェンがいて、その表情は俯いてしまって窺い知れなかった。
ルーシェン、と声をかけようとした時。
「ノワさん…僕…貴方に謝らなければならないんです…」
先に口を開いたルーシェンの声は、今の見事な歌声の持ち主の同一とは思えない程に暗く沈んでいた。
「僕、先の満月の時…てるてる坊主作りませんでした。晴れて欲しくなかった。満月の夜が来たら、貴方は帰ってしまう。もう逢えなくなってしまう。ノワさんは、妹さんがご病気で、それなのに、僕っ…」
ポツポツと砂の色が変わる。空は快晴で、未だ見事な満月が夜の闇を照らしている。
「僕、あの日雨が降って嬉しかった…僕、最低なんです、ごめんなさい…ごめんなさっ…」
その続きは、聞けなかった。
震える肩を抱き寄せ、骨が軋むほどに強く抱きしめたせいで、ルーシェンの言葉はノワの胸に阻まれて消えたから。
「…俺も、同じだ。あの日雨が降ったから、もう少し君といられると喜んだ。俺も、最低だ…」
ルーシェンは時折ごめんなさいと繰り返しながら、ノワの腕の中で嗚咽を漏らしていた。
妹の容態が急変したのは、きっと罰だったのだ。愛する妹のためにここへ来たのに、自分の恋に溺れたことへの罰。
ノワは静かに一雫だけの涙を流した。
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