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どれくらい、そうしていただろうか。ルーシェンがそっとノワの胸を押し返した。
「ノワさん、これ。」
そして差し出されたのは、ルーシェンが握りしめていた小瓶。
中には、透明な液体。
海水だ。
二つの満月の力を得た人魚が、治癒の力を宿した海水。
ノワが遠路遥々探しに来た、人魚の涙。
「味はただの海水だから、すごくしょっぱいから…飲む時は気をつけてって伝えてくださいね。」
そして、腕をくいと引かれる。然程強い力ではなかったが、抗わずに顔を寄せると、そっと触れるだけのキスをされた。
「僕、人魚だけど、貴方は人間だけど…貴方のこと、愛していました。」
さよなら。
囁くような告白と別れの言葉。
それだけを置いて、ルーシェンはすぐさま海へと飛び込み、そして潜っていってしまった。
「ルーシェン!!」
声を荒げても、もうそこにルーシェンはいない。
「ルーシェン、必ず戻ってくる!妹にこれを届けて、元気になった妹と一緒にここに来るから!だから待っててくれ!」
愛してる─。
その叫びがルーシェンに届いていたかどうかは、終ぞ知ることはない。
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