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秋ももう深まっている。丁度着ていたカーディガンを脱いで都竹さんにかけた。
ふわりと、香りがした気がした。
それはチョコレートをもっとずっと甘ったるくした様な香りで、一瞬なんの匂いだか分からなかった。
しかし、それもつかの間ようやくその匂いの正体に気が付く。
都竹さんのフェロモンだと思いいたると、一歩ニ歩後ずさる。
体はすでに熱くなり始めている。
ゼイゼイと荒い息のまま、慌てて自室へ飛び込み、抑制剤を許容量いっぱいに飲み込む。
まだ、頭の奥がボーっとしている。
今まで、誰のフェロモンも感じた事は無かった。
誰かにオメガとして反応したことも無かった。
薬さえ飲んでいればベータと大して変わらないと信じていた。
けれど、現実は俺はどうしようも無くオメガで、都竹さんたちの様なアルファとは全く別の生き物だった。
胃の中の物全てを吐いてしまいたいのに、それもままならない。
都竹さんは単なる家同士の決めた相手で、お互いに想いなんてものは何も無い。
そういう関係じゃなければいけないのだ。
都竹さんの匂いを忘れたくて、それでも忘れられそうになくて、自分がオメガであるという事実を突きつけられて、体の熱を碌に覚ます事もできないまま、ただただベッドの上でうずくまっていた。
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