本編

3/22
前へ
/45ページ
次へ
秋ももう深まっている。丁度着ていたカーディガンを脱いで都竹さんにかけた。 ふわりと、香りがした気がした。 それはチョコレートをもっとずっと甘ったるくした様な香りで、一瞬なんの匂いだか分からなかった。 しかし、それもつかの間ようやくその匂いの正体に気が付く。 都竹さんのフェロモンだと思いいたると、一歩ニ歩後ずさる。 体はすでに熱くなり始めている。 ゼイゼイと荒い息のまま、慌てて自室へ飛び込み、抑制剤を許容量いっぱいに飲み込む。 まだ、頭の奥がボーっとしている。 今まで、誰のフェロモンも感じた事は無かった。 誰かにオメガとして反応したことも無かった。 薬さえ飲んでいればベータと大して変わらないと信じていた。 けれど、現実は俺はどうしようも無くオメガで、都竹さんたちの様なアルファとは全く別の生き物だった。 胃の中の物全てを吐いてしまいたいのに、それもままならない。 都竹さんは単なる家同士の決めた相手で、お互いに想いなんてものは何も無い。 そういう関係じゃなければいけないのだ。 都竹さんの匂いを忘れたくて、それでも忘れられそうになくて、自分がオメガであるという事実を突きつけられて、体の熱を碌に覚ます事もできないまま、ただただベッドの上でうずくまっていた。
/45ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1907人が本棚に入れています
本棚に追加