第2章

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キッチンへ向かいコーヒーメーカーをセットする。コーヒーにはこだわりがあるのか、いくつもの豆が白く角張った棚に並べられていた。私には違いが分からないのではじめに目に付いた一番左端に置かれている赤いラベルの豆をセットした。コーヒーメーカーはミルも備え付けられた一体型になっていて、豆をセットするだけで豆を挽くところから全てやってくれるようになっていた。電源を入れると静かに駆動音が響き、キッチンへ芳醇な香りが漂い始めた。 コーヒーが出来上がるまでの間、目を閉じて、湊斗との同居について思考を巡らせてみる。今の家のことや、引っ越しについては特に問題はない。もしここに住むことになったら他人と暮らすのは6年ぶりか。中学を卒業して施設を出てからはずっとひとりだった。 トンティトロリン♪ 軽快な音が鳴ってコーヒーメーカーのランプが赤色から緑色に変わり点滅していた。戸棚に入っていた適当なカップを2つ取りコーヒーを注ぐと、それを持ってリビングへ行った。  リビングへ入ると、コーヒーの香りに目を覚ましたのか、湊斗が座ってテレビを付けていた。 「おはよう小夜。それ、モカか?俺、すきなんだよ」 「おはよう湊斗。さぁ、そうなのかしら。私コーヒーのことはよく分からないわ。でも、モカって苦いんじゃなかったかしら」 こてんと首をかしげて湊斗を見る。 「モカはきちんと焙煎されていれば苦みは少ないよ。甘みとコクがあって旨い」 「そうなのね。いつかお義父さんと飲んだあのコーヒーもモカと言っていたような気がするけれど、きっとちゃんと焙煎できていなかったのね。お義父さんがあの人の真似をして慣れていないことをしたからだわ。ふふっ」 遠い昔の少しぼやけ始めた記憶を思い返して微笑する。 「小夜の家族の話か。今度ゆっくり聞かせてくれるかい?」 「ええ、もちろん。でも、たいしておもしろくないと思うわよ」 「血を飲むことに快感を覚える女性の家族なんだからおもしろくないわけがない」 そういって湊斗はにやりとした。 「それもそうね」 わたしもまた、湊斗をみて口角を上げると、言った。 「わたし、ここへ住むわ」 湊斗は少し眉を上げて 「そんな重大なことをこんなに軽く決断していいのかい?」 と問うた。 「わたしだってちゃんと考えたわよ」 そう言って頬を少し膨らませる。
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