凶暴な犬とアンデッド

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 パルテノを出発したシャルルは、来た時とは違う北ルートを通り、次の目的地であるカルタス目指していた。カルタスはジョルダン侯爵が治める、流通の拠点となっている都市だ。西はドワーフの国であるジアンダ、東は高級リゾート地であるハノイ、そして北は帝都クレタへと、帝国内における重要な道が交差しているためだ。 「それにしても・・・」  シャルルの口から、思わずそんな言葉が漏れる。道路事情を目の当たりにすると、そんな愚痴が飛び出しても仕方ないと思える。  一旦北に向って「失われた地」を回避、そこから東に向かうこのルートは、綺麗に整備された道だったからだ。命を賭けるどころか、スリ傷を負う事さえも困難な道路事情だ。あの山岳地帯の行軍は、一体何だったのだろうか。確かに、ジアンダに行く道をギルド職員に訊ねはしたが、安全な別ルートが存在するならば、当然、そちらを紹介して欲しいものだ。  山岳ルートでは擦れ違う事がなかった商人も、キャラバンを組んで物資を運んでいる。それはそうだ。あれ程酒好きなドワーフ達が揃っているのに、パルテノには酒蔵は1軒も無かった。それはつまり、大量の酒を別の場所から買い付けているという事を意味しているのだから。  しかし、もしこのルートを利用していれば、ドドラに出会う事も、聖光の鎚を目にする事もできなかった。そう考えれば、結果的にはあのルートで良かったとも思える。  パルテノ発ってから3日目、明後日中には交通の要衝、カルタスに到着するという頃―――  道の真ん中を歩いていたシャルルの眼前で、突然、空間が歪み始めた。この展開された術式の気配は、何者かが転移を発動したものだ。しかし、転移の魔法は古代高等魔法の1つであり、現代において使用できる者はシャルル以外にいないはずだ。  では、一体何が?  不測の事態に備え、シャルルは即座に周囲を確認する。前後左右に視線を動かし、一先ず安堵する。現時点において、視認できる人影は1つとして存在しない。  そうしている内にも歪みは大きくなり、空間がピシリという音を立てると同時に、空中から何かが現れた。シャルルは反射的にそれ受け止め、その柔らかい感触に動揺する。  空間から現れたもの、それは紫の髪をした女の子だった。転移の影響なのか、少女は目を閉じたまま、ピクリともしない。荒々しい呼吸音が、犬歯が覗く口元から漏れるだけだ。
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