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ティルレーラは値踏みする様に眺めると、平坦な口調でイリアに問い掛ける。
「そなたは、ここに何しに参った。なぜ逃げて来て、これからどうしようと考えておるのじゃ?」
イリアはテレス聖教の、ユーグロード王国の民への思いを胸に抱え込み、顔を上げて毅然として答えた。
「私は、圧政を布くユーグロード王から王国の民を護るため、弾圧されるテレス聖教の教徒を救うため、その方法を探すために逃げて参りました。しかし、それは間違っていたと、今は思います」
イリアの言葉を聞き、初めてティルレーラの表情が動いた。
「ほう。それで?」
「ユーグロード王国の、国王ダムザの暴走は私達の怠慢が招いたものです。命懸けで換言する者がいれば、平和裏に中央集権を行う方法を考えていれば、反対派の貴族を惨殺する事も、他国を侵略する事も、テレス聖教の教徒を蹂躙させる事もなかった、はずです。
ですから私は・・・私は、シャルルを、勇者を探し出し、許してはもらえないかも知れませんが、荷物運びでも何でもして、共に魔王を、民に仇成す者達を討ちたいと思っています」
「ふむ」
イリアの決意を確認したティルレーラは、そう言って満足そうに頷いた。
「そなたの望みは、妾が聞き届けよう。必ず、当代の勇者に巡り合う事ができるであろう。ただし、勇者の許しが得られるのかどうかまでは、妾の関知する範囲ではないがな。
そこでじゃ、勇者に会った時に伝えて貰いたい事があるのじゃ。今の勇者に理解できるかどうかは分からぬが・・・妾はこの地にて、女神テレス様との約定通り、彼の地へと通じる道を維持しておる。とな」
ティルレーラはそう告げると、イリアの返答も確かめないまま、右手で目の前の空間にクルリと輪を描く。そして、何の呪文も唱えず、魔法名だけを呟いた。
「妖精の小道」
すると、円を描いた空間に穴が開き、その奥に真っ直ぐに続く小さな道が出現した。
目を見開くイリアに、ティルレーラが示す。
「行くが良い。この道は、そなたと勇者が再会する場所へと通じておる。勇者が英雄となり、そなたが許されておれば、再び会う事もあろう」
それ以上話す必要が無いかの様に、ティルレーラは口を噤んだ。
イリアは深々と頭を下げると、妖精の小道に足を踏み入れた。その瞬間、入口は閉じ、小道の先に小さな出口が出現する。その出口に向かって、イリアは歩き始めた。
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