リリスと三国同盟

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「ダムザ様、全てのテレス聖教関連施設の破壊及び、聖教徒の粛清が終了致しました」  謁見室の玉座に座るダムザに対し、片膝を突いたアドバン・ラザールが報告する。本来、近衛隊長が実行すべき職務ではないが、ダムザによる勅命を受け、任務を遂行してきたのだ。 「良くやった」  満足気に頷くダムザが、アドバンに声を掛ける。 「それで、イリアはどうした?」  続いた言葉に対する対応は、アドバンの背後に立つダムザの第一夫人であるララが行った。 「イリアは何があってもダムザ様には従わぬと申しましたので、灰にして参りました」  ダムザはほんの一瞬表情を歪めたが、直ぐに鷹揚に片手を上げた。 「御苦労だった。下がって休むが良い」 「ハッ」 「畏まりました」  2人が去った後、ダムザは傍らに控えるリリスに向かって右手を出した。リリスは、要求されるよりも先に用意していたグラスを渡す。その深いガラス製のグラスには、溢れる程に深紅の飲み物が注がれていた。ダムザはそれを口に運ぶと、いつもとは違う声音で言葉を紡いだ。 「リリスよ、余の支配率が50パーセントを超えた様だ」  闇夜において、どこまでも響き渡る様なバリトンの声がリリスの耳に届く。その瞬間、リリスはダムザの前に回り込み、片膝を突いて涙を流した。 「ああ、ああ・・・お帰りなさいませ、御主人様」 「うむ。リリスよ、そなたも無事で何よりだ」  涙を流しながら満面の笑みを浮かべるリリスは、先程までの怠惰な娼婦とは全く違う気配を纏っている。それは、歴戦の戦士と遜色のないものだ。 「しかし、余の力は半分しか戻っておらぬ。まだ暫く時間が必要であろう。とはいえ、最早、この身体の主導権は余の物だ。もう心配はいらぬであろう」  手にしたグラスを呷りながら、ダムザがリリスに直接命令する。 「力が完全に戻ると同時に、余は世界を滅ぼす」 「はい」 「そのためには、一刻も早くこの大陸を掌握する必要がある。ガザドランはアニノートでゲリラ戦の真っ只中。アドバンとララは、ここで余の護衛をさせねばならぬ。リリスよ、そなたが行って、三国同盟を傘下に収めて参れ」 「容易い御用です。お任せ下さい御主人様」  リリスは頭を下げると、背中かから漆黒の翼を生やし舞い上がる。そして、不可視の魔法を唱え始めた。 「行って参ります」  その言葉を最後に、リリスの姿が見えなくなった。
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