サリウの動乱

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 街を取り囲む塀は石積で、高さが10メートル程ある頑丈な造りだった。イグスタルーグよりも、数段耐久力が上に見える。しかも、川から水を引いているらしく、幅が5メートル以上はある水の流れが塀の外枠を流れている。  巨大な跳ね橋は下りており、馬車は衛兵に止められる事もなく、そのまま門を抜けていく。  馬車は停車する事なく、メインストリートをそのまま進んで行く。  シャルルが窓から外を見ていると、小さな子供が馬車に手を振ったり、大人達が頭を下げたりしている。馬車が珍しいのかとも思ったが、街中に馬車は散見される。つまり、理由は別にあるのだ。このメインストリートの先にあるものは何か。  ここは、ギリアム・クルサード辺境伯が治める地。出会った時、マリアは何と言ったのか。  シャルルはここにきて、ようやく思い出した。マリアはあのレストランで、こう自己紹介したのだ。「マリア・クルサード」だと。確かに、今は商人だとは言ったが、他の事は一切口にしていない。これならば、政務官適性がSである事にも納得がいく。  宿場町で情報収集をしている時に、シャルルはよく耳にした。  「ギリアム・クルサード辺境伯は仁君だ」と。その治世に不満を漏らす領民は無く、政治手腕は一級品。しかし、「最も優れているものは武勇であり、その実力はAランクの冒険者にも匹敵する」と。齢40にして筋骨隆々、奥方に頭は上がらないが、魔物には頭を上げさせない。  そして―――  城に辿り着くと、鉄製の重厚な城門が、ギシギシという音とともに開く。そして、その瞬間、中から矢の様な勢いで飛び出してくる影があった。 「くたばれや、このクソ野郎がああああああ!!!!」  ゴウゴウと空気を切り裂く大剣が、シャルル目掛けて襲い掛かる。紙切れの様に馬車の外装が切れ、そのままの勢いで刃先が迫る。その時、既にダリルがマリアを保護しており、背後には誰もいなかった。それでも、シャルルはその刃を両手で挟むと、その勢いを利用して右側に捻る。その反動で、危険な中年男性が城門に突っ込んだ。  周囲が静まり返る中、真っ二つになった馬車からシャルルが出る。すると、城門に激突した通男性が、剣を杖代わりにして起き上った。そして、再び両手で大剣を握ると、全身から闘気を発し始める。  一体何が起きているのか分からないシャルルは、マリアの顔を窺う。マリアはグーパンチの動作をした。
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