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「うおおおおおおおっ!!!!」
雄雄しく立ち上がった中年男性は、気を練り込んで輝く剣を構え、獲物を狙う猛獣の様にシャルルに襲い掛かる。戸惑いながらも銅の剣で受け止めたシャルルは、仕方なく元の場所へ投げ飛ばした。
「旦那様、大丈夫ですか!!」
駆け寄るダリル。近くにいた衛兵は、そぼ光景を呆然と眺めている。
「イ、イタタタ・・・・」
腰をさすりながら立ち上がる中年男性に、マリアが歩み寄る。
―――――クルサード辺境伯は、子離れできていない。
「お父様でも、シャルル様には勝てませんわ」
「お父様?」
この時になって、シャルルは気付いた。突然襲い掛かってきた中年男性が、この地の領主であるギリアム・クルサード辺境伯であると。散々地面に這いつくばらせた後だ。シャルルには弁明の余地もない。
「まあ、今回は、いきなり剣を向けたお父様が一方的に悪いですわね。しかも、私の恩人であるシャルル様に」
見ず知らずの若い男の肩を持つ発言に、腰の痛みも忘れたクルサード辺境伯が経ち上がる。
「マ、マリア、我が娘よ、なぜ、その素性も知れぬ男の味方をするのだ。オマエは、その男にたぶらかされているだけだ。目を覚ませ!!」
クルサード辺境伯の顔に、マリアのグーパンチが炸裂する。
「シャルル様とはそんな関係ではありません。刺客から助けて頂いた恩人ですわ!!」
ふと視線をズラすと、ダリルがそれに合わせて横を向いた。どうやら、事の成り行きを、ダリルが伝書鳩で知らせていたらしい。しかも、誤解山盛りで。
「あ、あの、大丈夫ですか?」
クルサード親子の元に、おずおずとシャルルが近付く。すると、クルサード辺境伯が姿勢をただし、今更ではあるが威厳のある態度を示す。
「ワシが、この地を治めるクルサード・ギリアムだ。まあ、あれだ、色々と手違いがあったが、礼も言わねばならぬ。とりあえず、城に迎えよう。ただし、マリアと並んで歩いたら、国家反逆罪で地獄の底まで追い掛ける!!」
「ハハハハ・・・」
シャルルはクルサード辺境伯に招かれ、その後をついて行った。何はともあれ、まだ成功報酬も貰っていない。
両側に衛兵が立ち並ぶ玄関を入ると、赤絨毯の両側に今度は10名以上のメイドが並んでいた。その全てが、一斉に頭を下げる。
「マリアお嬢様、おかえりなさいませ」
それに、マリアが笑顔で応えた。
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