サリウの動乱

8/18

9080人が本棚に入れています
本棚に追加
/516ページ
※ ※ ※ ※ ※ 「よもや、マリアが生きて帰ってくるとは。しかも、全ての魔石を回収してくるなど」 「ち、父上、我々は大金持ちになって、ユーグロードで爵位持ちになるのではなかったのですか?それが、闇に紛れて逃げるなんて」 「う、うるさい!!とりあえず、館に戻るのだ。あそこに全財産がある。何としても、それを持ち出さなければならぬ。でなければ、ワシの半生が水の泡だ」  サリウからダンジョンへと続く道を、目立たない質素な馬車が急いでいる。その中には、ダンジョンの管理者たる代官と、その息子が乗っている。代官であるザンギスは頂点まで磨かれた頭を撫でながら、これからの事を考え続ける。  闇ギルドから持ち掛けられた取引。ダンジョンを攻略する冒険者から買い取る魔石をデスリー商会に横流しする事で巨万の富を築き、しかも、一定量の取引を実行すれば、あのユーグロード王国の男爵に推挙するという好条件。ザンギスはすぐに飛び付いた。  もう、飽き飽きだったのだ。もう50が近いというのに、未だダンジョン管理の代官。何の権限もなく、今更昇進する可能性もない。だから、一か八か、このギャンブルに乗った。  他の領地でも、同様に声を掛けられた者がおり、爵位は早い者勝ちだと言われた。勝算はあった。やれるはずだった。しかし、マリアが魔石の買い取り量に疑問を抱き、調査を始めた。  子供だと舐めていたが、マリアは思いのほか優秀だった。城内の者に訊ねれば、「100年に1人の天才」だという答えが返ってきた。それでも、まだ勝算はあった。アレが発見されたからだ。  しかし、それでも、マリアが商人を装いラナク海峡を渡った事に肝を冷やした。魔石を押えられたら元も子もない。闇ギルドから刺客を送り、念のために子飼いの兵を宿場町にも配備した。  それでも、アイツは生きて、魔石を持って帰ってきた。  終わりだ。  もう、ワシはお終いだ。  代官館に辿り着くと、ザンギスは有り金を袋に詰め込み、逃亡する準備を始める。  とりあえず、どこか遠く、国外に逃げなければならない。今のうちに、この暗闇に紛れて・・・ 「ち、父上!!」 「何だ騒々しい。お前も早く、金目の物を集めろ。ずぐに脱出するぞ」 「それが・・・」  カーテンの隙間から外を見ると、早くも外が騒がしくなっている。想像していたよりも、クルサード兵の行動は迅速だった。
/516ページ

最初のコメントを投稿しよう!

9080人が本棚に入れています
本棚に追加