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「これまでか」
外の状況を確認したザンギスは、唇を噛み締める。
長年クルサード領で代官をしてきたため、兵の精強さを十分に知っていた。アルムス帝国内部の都市とは違い、他国と接触し、常に緊張感を持っているクルサード領の兵は本物だ。その兵を相手に、逃げ切れるはずがない。
「父上、一体どうすれば良いのですか?」
ガクガクと足を震わせる息子に、ザンギスが告げる。
「もはや、我等にはどうする事もできぬ。このまま捕まれば、国家反逆罪。死刑は免れないであろうな。しかし、まだ希望はある。とにかく、館に隠していた魔石を持って、隠し通路から逃げるのだ」
「う、うん、分かった」
希望などない。どう足掻いたところで、すぐに捕まるだろう。そんな事は、ザンギスにも分かっている。そもそも、魔石を他国に横流しした事が悪いのだ。その結果がこれなのだ。
しかし、追い詰められるに従い、ザンギスの思考が歪んでいく。
いや、なぜワシが追い掛けられなければならないのだ。なぜ、こんなにも必死で逃げなければならないのだ。帝国がワシの能力を認め、重用していれば、魔石を他国に横流しする必要などなかったのだ。そうだ。ワシは何も悪くない。ワシの能力を認めなかった、帝国が悪いのだ!!
ザンギスは隠し通路から館の外に出ると、息子を連れある場所に向かう。そこはダンジョンがある場所よりも西へ2キロほど離れた場所だ。そこには、ザンギス直属の兵が守る、暗くて深い穴があった。
「ザンギス様、いかがなされましたか?」
「何でもない。お前達は、ダンジョン砦に帰って休め」
ザンギスは兵達に指示すると、ダンジョンの入口から中に入る。
「父上・・・」
「我が息子よ。ワシは帝国が許せぬ。ワシの能力を理解せぬクルサードを許せぬ。ワシらはここまでだが、クルサードも道連れだ!!」
ザンギスはそう言うと、運んできた袋を逆さまにして中身をばら撒く。息子もそれを倣い、手にしていた袋の中身を地面に放り投げる。
「通常、冒険者などによって倒された魔物は、一定時間経つとダンジョンに吸収される。大半の場合、それに魔石は残っていない。だから、ダンジョンは正常に保たれる。しかし、もし仮に、ダンジョンが大量の魔石を一気に吸収した場合はどうなるのか?」
ダンジョンが大量の魔石を吸収し、赤く輝き始める。
「暴走するのだ―――」
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