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「大地が燃えている」という報告がクルサード辺境伯の居城に届いたのは、夜明け前だった。
ザンギスが隠していたダンジョンが魔石を吸収し、過剰に蓄積された魔力が暴走する一歩手前になっていた。今や、ダンジョンは離れた場所からでも確認できる程、真っ赤に激しい光を放っている。太陽が昇るまでには、間違いなく暴走するだろう。
ダンジョンが暴走すればどうなるのか?
暴走すると通常では考えられない数の魔物が生み出され、それがダンジョンより溢れて近隣の村や街を襲う。魔物の数や種類によっては、一国が滅びた記録さえある。幸いな事に、今回はダンジョンが新しく、そして人為的に暴走させたため、それほど強力な魔物もいなければ、数も少ないと予想される。それでも、一都市を壊滅させるには十分過ぎる。
「それで、一体何が起きている?」
緊急事態との報告に、早朝にも関わらず辺境伯自ら内容を確認する。ザンギスを捕えたという報告かとも思ったが、どうも様子が違う。馬を飛ばして来たであろう兵士は、膝をついた状態でとんでもない事を口にした。
「報告申し上げます。ダンジョンの東方面の大地が真っ赤に燃えております。代官もおられず、我々では判断できないため、指示を頂きたく参上致しました!!」
「燃えておる、とな?」
辺境伯は報告を聞くと、ダンジョン方向にあるバルコニーに向かう。
ダンジョンを管理するダンジョン砦とサリウまでの距離は約3キロ。間は何もない草原であり、森の入口付近にあるダンジョン付近の様子は確認できる。辺境伯はダンジョン砦に視線を送り、それを東側に移した瞬間絶句した。
「あの光は、ダンジョンの暴走・・・ザンギスめ、ダンジョンを隠しておったな!!」
辺境伯は憤怒ほ表情で振り返ると、その場で叫ぶ。
「ダンジョンの暴走は何としても止めねばならぬ!!ワシが出陣する故、鎧を持て!!」
「お待ち下さい」
今にも飛び出しそうな辺境伯を止めたのは、白銀の胸当てとバトルドレスに身を包んだマリアだった。
「お父様は、ここにお残り下さい。城門を固く閉じ、何としても、この街とここに住む人々をお守り下さい」
「だが、しかし!!」
「分かっております。ダンジョン砦にも大勢の人々が滞在しています。この地を預かる者として、見殺しにはできません。ですから、私に兵をお貸し下さい。私が、彼等を救って参ります」
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